• ​ 松村 充

第四回 オリンピックと感染症

東京オリンピックが終わり、8月24日からは東京パラリンピックが予定されています。開催については、新型コロナウイルス感染者が増加していることもあり賛否両論ありました。今回は、開催の是非や新型コロナウイルス感染症以外の感染症に注目して話をしたいと思います。

新型コロナウイルスに注目が集まっていますが、実は、オリンピックは開催国にとっては、いろいろな感染拡大の危険性がありました。しかし、無観客開催が決定し、海外からくる方が大幅に少なくなり、感染拡大リスクが最小限になったことは、よかったと思います。

とはいえ、注意が必要です。オリンピックが開催されると、開催地域に多くの人が集まります。日本人だけでなく、海外の方(メディア、選手に付随するコーチや関係者)も比較的多く来日するため、海外で流行している菌、ウイルスが日本に持ち込まれる機会が多くなります。

このような状況を「mass gathering(マスギャザリング)」といいます。マスギャザリングとは、「一定期間、限定された地域において、同一目的で集合した多人数の集団」と日本集団災害医学会により定義されています。人が多く集まるほど、何らかの感染症に感染している人が存在する可能性があり、人から人へ感染拡大しやすい状況になります。そのためマスギャザリングでは細菌、ウイルスが持ち込まれ、そのまま感染拡大するリスクが高まります。

過去のオリンピックでは、2018 年に開催された平昌冬季五輪でノロウイルス感染が拡大

し、選手に感染しました。2016 年に開催されたリオ夏季五輪では、ブラジル国内でジカ熱が流行して参加を辞退する選手が続出するほど問題となりました。

1964年の東京オリンピックは、10月より開催予定でしたが、その直前の6月に日本で集団赤痢が発生し、さらに8月にはコレラ患者が発生。日本中が大いにあわてましたが、政府の行動は迅速でした。政府は東京港と羽田空港の従業員、付近住民、接客業従業員など18万人以上にコレラと天然痘の予防接種を行うと同時に、赤痢対策として関係者32万人の検便も行い、何とか蔓延を防いだうえで開催にこぎつけました。

今回の東京オリンピック2020ではどうだったのでしょうか。


海外から持ち込まれる注意しなければならない感染症としては、下記のものがあります。

ワクチンで予防可能な感染症:麻疹(はしか)、風疹、侵襲性髄膜炎菌感染症

              インフルエンザウイルス、百日咳

昆虫、動物による感染症 :中東呼吸器症候群(MARS)、

             蚊媒介感染症(デング熱、ジカウイルス感染症)

食品による感染症 :腸管出血性大腸菌(O-157など)、細菌性赤痢、

A型肝炎、E型肝炎

          感染性胃腸炎(ノロウイルス感染症を含む)

その他 :結核、梅毒


免疫をつけて予防できるものは、ワクチン接種や体力をつけるなどで備えましょう。飛沫

感染するのはインフルエンザ、風疹、百日咳です。飛沫感染を防ぐには、鼻を出さずにマス

クをつけるのが有効です。

蚊媒介感染症は蚊にさされないことが大事です。蚊が多い場所では、できるだけ肌を露出

せず、虫よけ剤を使用するなど注意しましょう。

食品媒介感染症は細菌、ウイルスが含まれた水、食物などを食べることによって感染します。調理する時は、中心温度 85℃ 1 分以上でよく熱を通すこと、生ものなど感染リスクが高そうな食物は口にしないことが大事です。我々が簡単に実施できて、効果が高いことは、とにかく手洗いをしっかり行うことです。マスクをして、密にならないようにしましょう。


帝京大学 医療技術学部 臨床検査学科

准教授 松村 充

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