ウイルスは変異します。
それは変化に対応するための変異もありますが、ほとんどはRNAの複製ミスによるもので、新型コロナはRNAウイルスでありDNAウイルスよりもさらに不安定で変異も早く、約3万ほどある塩基配列に15日に1個の割合で変異が起こっているとされています。これは他のRNAウイルスよりも変異スピードは遅いです。新型コロナウイルスはRNA複製を間違った場合に自己修復する遺伝子を持っているためです。インフルエンザはコロナと比べ変異が早く、ワクチンの有効性にバラつきがあるのもこのためと言えます。
すでに世界中に数万の変異株がいると想定されています。変異によって感染力を強めたり、毒性を強くしたりするウイルスが現れる一方、無害化や死滅するウイルスもいるので全ての変異株を恐れる必要はありません。
ではなぜ、変異ウイルスに注意が必要なのか?
1、ワクチンの効力低下
2、感染力の増強
3、毒性増強
が問題となるからです。
まずは感染の仕方について
気管支や肺に多く存在するアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)を持つ細胞表面にあるACE受容体にコロナウイルスの表面にある突起状のスパイクたんぱく質が選択的に結合します。
結合したウイルスは細胞内に自己のm-RNAを送り込み、ヒトの細胞をだまして自己のRNAを作る指示を出し、大量に自己を複製します。耐えられなくなった細胞は破壊され大量のウイルスが咳などによって身体から排出され感染を広げます。したがって感染を防ぐにはスパイクたんぱく質をACE2受容体に結合させなければ良いのです。ワクチン接種によって体内で作られる免疫抗体は、このスパイクタンパク質を包み込みACE2受容体に結合させない免疫抗体を作って感染を防いでいます。
変異で問題とされているのがこのスパイクタンパク質を構成する遺伝子の変異です。
ワクチン接種によって作られる免疫抗体は既存のウイルススパイクに対して選択的に結合し感染を抑えます。もし変異によってスパイクの形や構成が変わったら・・・・。
ワクチン接種によって作られる免疫抗体はスパイクに結合せず有効性が無くなります。
現時点で変異の系統は12系統ありますが、感染に深い関係のあるスパイクタンパク質の変異で問題視されているのは、発生した国を基に英国VOC-202012/01(B.1.1.7)、南アフリカ501Y.V2(B.1.351)、ブラジル501Y.V3(P.1)の3系統が報告されています。この系統の中でも世界的に注目される変異株は
1、E484K:ワクチンの効果が低下し再感染など免疫力が低下する可能性が指摘されている。
(スパイクたんぱく質の484番目のアミノ酸に変異あり)
2、N501Y:感染力が高く、毒性が強くなっている。
(スパイクたんぱく質の501番目のアミノ酸に変異あり)
3,E484KとN501Yの複合型:感染力が高く毒性はそれほど高くないと言われている。
の3種です。
日本でもワクチンの効果が薄れる可能のあるE484Kが従来型と置き換わってきており、ここ数カ月で罹患した方の半数がE484Kと報告されています。ワクチンを製品化する場合通常10年は研究期間が必要と言われています。今あるワクチンは1年で製品化されており、スパイク全体に免疫抗体が結合するので多少の変異には対応できるよう作られていますが、大きな変異型への対応やヒトへの影響、その他など、まだ未知数であり研究者も見守っている状態です。イギリスでは劇的に罹患者が減ったと報道はありますが、半年後はまだ誰も予想がつかない状況です。
さらに今後新しい変異株の出現も想定されますが、エンベローブのあるRNAウイルスには変わりありませんので、ワクチン接種の有無に関わらず、1度感染された方も罹患する可能性があるため、引き続き感染予防策を今まで通りで構いませんのでしっかりと行いましょう。
マスク、手洗い、密を避ける。今まで通りです。
*本稿は2021年4月8日における資料と状況をもとに寄稿しています。
今後様々なことが解明し変わっていく可能性があることを念頭にご閲覧ください。
公益社団法人 東京都臨床検査技師会
業務執行理事 副会長
杉岡 陽介
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